私が滞在しているのは、マサチューセッツ州ボストンのロングウッド地区にあるブリガム&ウィメンズホスピタル(BWH)という病院です。放射線科の医用画像や医用ロボティクスの研究室に、客員研究員としてお世話になっています。
この研究室の先生のお一人が波多伸彦准教授で、今回私の滞在を受け入れて下さいました。私の専門は工学は工学でも「デザイン工学」です。デザインという言葉から多くの人が連想するのは、色や形を作ること/絵を描くこと/ものの見た目/模様など、ものの外観に関することが殆どでしょう。私が実際にやっていることはこういうデザインとは異なりますが、波多先生は詳細を説明する前に、私の滞在を快諾して下さいました。
医用工学の研究室にデザインの学者が行っても良いのかな、と半信半疑で研究室を訪ねましたが、行って納得しました。研究室には様々なバックグランドを持つ人がいて、機械工学、遺伝子、コンピュータサイエンス、画像工学、医師・・・などなど。
波多先生が軽快な口調でおっしゃるには、
「うちはどんなバックグラウンドの人でも受け入れることにしているんです。」
「色々なバックグラウンドを持つ人と、コラボレーションして研究しているんです。」
とのこと。いわゆる「学際的に研究をしている」ということなのですが、実は学際的な研究は理想的ではありながら、実行するのがとても難しいのです。
日本でも80年代頃から「これからはスペシャリストではなく、ジェネラリストを育成するべきだ」という主張が時々思い出したようにされていますが、現在までにこれが実現した兆しは特にありません。大学の学際教育も大抵失敗に終わっているようです。理由は、教育する側がそもそもジェネラリストではなく、スペシャリストだからでしょう。スペシャリストが集まって、お互いの分野に興味を示すこともなく、それぞれの専門分野を教育するだけが日本の学際教育です。
教養学部と名のつく学部も国立大学から消えて久しく(東大と埼玉大にはありますが)、学部でも比較的早いうちから専門課程に移行するカリキュラムが採用され、ますますジェネラリスト育成からは遠ざかってしまいました。
こういうごちゃごちゃした難題をあっさり乗り越えた、
「うちはどんなバックグラウンドの人でも受け入れることにしているんです。」
という言葉通りの研究室の光景に、まずは驚嘆しました。
ただこれはこれで簡単に実現出来る訳ではなく、色々な工夫があって成り立っていることを、このあと私は理解しました。