ところで、今回私がブリガム&ウィメンズ・ホスピタル(以下、BWH)で研究したいと思ったのは、医用機器の開発現場を観察するためでした。特にBWHは病院の中に医用工学の研究室があるため、実生活から孤立した研究室ではなくフィールドで開発していることにも興味がありました。医用機器の開発には、医学と工学の専門性の高い知識を融合する必要があります。デザインの方法論の研究をしている私にとって、高度専門知識が融合する製品の開発方法は、興味深いテーマの1つです。
製品やサービスを開発するプロセスは沢山ありますが、例えばISOが定めているユーザを中心としたデザイン(ヒューマン・センタード・デザイン)では
1. 解決する問題、要求の決定
2. 利用状況の把握
3. ユーザや組織の具体的な要求事項の明示
4. 解決案の提案
5. ユーザの要求事項に対する提案の評価
というプロセスが推奨されています。
プロセスの一番目は、これから作るものがどんな問題を解決するのか、どんな目的・役割を持つものなのか、それを決めるとても重要な部分です。ところがこれがデザインのプロセスで一番難しく、現時点ではほとんど方法がありません。熟練したデザイナーや技術者が、長年の経験と勘で「よし、次はこんなものを作ろう!」となんとなく作る、必要かどうかは分からないけれど・・・。いわゆる暗黙知ですが、これが現実です。それでも車や家電などの日常的によく使う物や、身近なサービスなら「なんとなく、次はこんなものを作るか」という目星も付かないこともないので、なんとかなってはいましたが。
これが医用機器のように全く日常的ではないものの場合、デザイナーや技術者はどうやって「次に解決するべき問題は、これ」ということが分かるのでしょうか?
波多先生との最初のミーティングで、ここまでのやや複雑な話を、もっとデザインの専門用語をちりばめて言ってみたところ、波多先生は研究室で何が行われているかをじっくり観察するために、私が先生の「シャドー」になることを提案して下さいました。シャドーイングと言うそうですが、重要な会議中でも商談中でも本物の影のようにくっついて回るのが許されるという、驚愕の提案でした。
そんなことが出来れば確かに一番良いですが、発想すら無かったのでひたすら驚き、かつ「どんな人でも受け入れることにしている」ということの意味を理解しました。これはただ何でも受け入れるというだけでなく、どんな異分野の話でも関心と理解を示し、さらにその人の要求に合ったアサインをするということなのでしょう。もちろんこれは並大抵のことではありませんから、様々なバックグラウンドの人の学際的研究のマネジメントは難しいことには変わりません。
そして実際にそのあと、すぐに私は波多先生のシャドーになりました。
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