BWHとS社のミーティングは、2日に渡って行われました。
2日目の朝、ミーティングが始まって1時間ほどしたところで、一人の小柄なおじいさんが部屋に入ってきました。
「グッドモーニング」
「ハウアーユー?」
リエゾンが少なく、はっきりと聞き取りやすい発音の挨拶。ちょこんと席についた途端に、自分の意見を一通りまくしたてました。どこでそれまでの流れを聞いていたのかは謎ですが。話し終わるとゴソゴソと鞄を漁ってジップ付きのビニール袋を取り出しました。中にはチョコブラウニーのような、小さなパンが一切れ入っています。それをまたマゴマゴしながら苦労して取り出し、もぐもぐ食べ始めました。
ミーティングの資料を見ると、BWHの医師のようです。
すこし食休みをして落ち着くと、また喋る喋る、お一人で本当によく喋り続けるので、英語力の足りない私は長過ぎてよく分からなくなりました。なんとなく理解したのは、この方の意見は他の医師とは違うものであるということです。
治療者としての要求だけでは無く、かなり突っ込んだ技術的な話もしている模様。注意深く聞いていると、かつて開発に携わった(アイデアを提供したと言う表現でした)「カリプソ」という放射線治療機器の技術仕様を、事細かに話しています。何度も資料を見直しましたが、彼の肩書きはMD(医師)でした。
午後になると彼はココナッツジュースを持って再登場し、ジュースのパックを機器に見立てて振り回しながら、白熱して話していました。かつて長嶋茂雄が解説者時代に、小さなバットを振り回しながら解説していたのを想像して頂くと想像しやすいと思います。
会議の後、私は彼を追いかけました。エレベーターの前で追いつき、
「ハロー!アイムビジッティングリサーチャー、フロムジャパン。アイドゥライクトゥアスクユーサムクエスチョン(日本から来た客員研究員です。いくつか質問させて頂いてよろしいでしょうか?)」
と言うと、なんだこいつは・・・・と戸惑った表情ながらも応じて下さいました。
「ご専門はなんですか?医師って書いてありましたけど」
「医師ですけど?」
「ただの医師じゃないはずです、貴方は機械に詳しいし、開発もしたって。」
「医師だけです。工学博士だと思ったの?」
「でも、学問領域を越えて話していました。技術仕様のことまで。他のお医者さんは治療の話しかしていません。」
「だから医師ですよ。」
「じゃあどうして機械のこと詳しいんですか?」
「医大を出た後、1年間工学の学校に行きました、そういえば。」
「あー、やっぱり」
「そこで初期のプログラミングの勉強をして、だから最初の論文はエンジニアリングのものです。」
今度は私が矢継ぎ早に質問をしてしまいました。
「オフィスに来なさい」
と言って頂いたので喜んで付いて行ったら、いつもの研究室に入って行くではありませんか。どうやら研究室の中にある個室の1つが、彼のオフィスだったようです。その個室はいつも無人だったので、同じ研究室にいたことを知りませんでした。壁には沢山の新聞の切り抜きと賞状。MRIの前で撮影した写真付きの新聞記事もありました。
「これ、開発されたんですか?」
「うん。」
「あ、これ私の名刺です」
「ふーん、良い名前だね。これは私の名刺、あげるよ」
「Ferenc?フィレンツ?ドイツですか?」
「いや、私はハンガリー。」
こちらがそのFerenc Jolesz医師です。
ハンガリーだから英語の発音がはっきりしていたのかも知れません。
そしてこちらの雑誌も頂きました。
表紙は12年前のJolesz医師です。雑誌では、「画像診断を用いた手術のパイオニア、第一人者」として紹介されていました。後から知ったことには、かなり初期の段階からMRIを用いた手術の研究・開発をされていたようです。日本に20回行った、と話していましたが日本で講演などもされていたようです。
こういう人材がいて、分野横断型の研究が進歩するのかも知れません。


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