雇用形態の話

昨日波多先生が、BWHの研究者の雇用形態について
「ものすごく分かりやすく言うと、うちの研究室の人、皆アルバイトなんです。」
と関西弁でいつものように軽快に仰るので、私は本当にびっくりして例によって根掘り葉掘り聞きました。

「波多先生もですか?」
「僕もアルバイトです。」

波多先生は准教授なので、てっきりハーバード大学のパーマネント雇用で、月給やボーナスを貰っているものだと思っていました。色々聞いてみると、これは波多先生と研究室のメンバーだけではなく、BWHの研究者全員に共通した雇用形態らしいです。(ただし大学で授業を持っている人はすこし違うそうです。)
アルバイトと言うと語弊があるそうですが、日本の大学教員の雇用形態とは基本的に異なっているようです。

「アルバイトというのはどういうことですか?任期があるということですか?」
「任期もないです。1日1日です。」
「給料の体制は、日払い・・・?時給ですか?」
「時給です。」

波多先生曰く、アルバイトよりももっと厳しいのは、なんとハーバード大学から波多先生や研究室のメンバーが給料を貰うことはないそうです。それではどこから給料を貰っているのかと言うと、自分で取って来た研究費の中から自分で自分を雇い、他の研究者も雇っているのだとか。もしも研究費が取れなかったら、必然的に辞めることになるそうです。

「言わば個人商店のようなものです。アルバイトだったら例えばマクドナルドがバイト代を出してくれますよね。僕たちのアルバイトは自分でお店を建てて、お金も商品の仕入れも人の雇用も、全部自分でやらないといけないから、もっとひどいです。」
「そうですね・・・。」
「それから大学に上納金を払わないといけないんです。」
「えー!」
「取って来た研究費の40%くらいは、寺銭として大学に取られます。」
「アガリ、ということですよね。」
「上納金を払っている限りは、クビにはなりません。払えなくなったらクビです。」

と言うとなんだかすごく悲惨な雇用条件のように聞こえますが、全員がこの状況なので、例えば日本の特任教員のように「任期無しの雇用になれない人」という悲惨なイメージがある訳ではないそうです。将来の保障は無いけれど、自分で仕事を取れる限りはやっていけるという意味では、自由業に近いのかも知れません。実力勝負なので楽しそうです。それから、自由業的ではありますが大学から社会保障は付いているそうです。
とはいえ、日々凄まじいプレッシャー、過酷な競争、お金の管理、人のマネジメントなどなど、想像しただけでもものすごく大変なことは分かりますが。
大学研究者のこの雇用形態は、アメリカで戦後に増えたそうで、これに伴い研究者の数が増えたそうです。

波多先生はPIと言われる研究の責任者です。PIと言うのはPrincipal Investigator のことで、研究費を取って来て研究プロジェクトを管理する、いわばリーダーです。経営者、あるいはマネージャー、ディレクターとも言えるかも知れません。研究者の中でも、PIになれる人ばかりではないらしく、これはマネジメントの素質に加えて研究費の獲得が出来るかどうかと言うことも勿論あります。

「お金を取るのがうまいと言うのは、予算申請書の文章を書くのがうまいということではないんです。研究費の審査はそれまでの論文数ですから、論文を出していないと通りません。」

研究費が取れれば研究が出来るから、論文が書けます。論文が書ければ、また次の研究費が貰えます。そう考えると大富豪ゲームのようです。これは私たちデザイン工学の分野とはすこし違っていて、私たちは調査や実験にお金がかかりません。だから研究費が取れなくても、研究して論文を書くことができます。

「だからずっと走り続けないといけない訳です。止まったらクビですから。」

日本の大学でも、研究者といえども本当に研究だけしている訳ではなく、予算や人事的なマネジメント力、戦略的な能力が必要ですが、アメリカはもっと厳しいことを思い知りました。それにも関わらず波多先生がこのシステムで研究することを選んだ理由の1つは、研究に集中して、患者さんを治療するという目的に専念出来るから、とのことでした。

「僕は疑問の無い人生にしたいんです。」

以上、文章にすると波多先生がものすごく固い雰囲気の人のようになってしまいますが、波多先生の台詞はすべて軽快な関西弁を想像して読んで頂くと、そうカチカチではないことが伝わるかと思います。

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About mikikumekawa

粂川美紀 Miki Kumekawa 千葉大学大学院工学研究科デザイン科学コース特任助教時代に、独立行政法人日本学術振興会「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」基金により、米ハーバード・メディカル・スクール ブリガム&ウイメンズ病院に客員研究員として滞在しました。このブログはその時の記録です。
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