さて、ここ最近BWHで見て来たことを、デザインの視点から整理します。
デザインと言っても一般的に思われるような「形を作ること」ではなく、「人間の生活における問題を発見し、それを解決するための創造的思考作業およびその結果」という視点です。要するに、医用機器の開発では、どのように問題を発見し解決しているのか?ということを考察します。
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アメリカに来てまだ2週間ですが、研究室の方の多大なるご協力のもとに、私は医用機器の技術開発から製品化までのプロセスを随分気前よく見せて頂いています。私が行っていることは、研究手法で言うとフィールド調査の「参与観察」に相当します。これは実際に観察したい現場にメンバーの一員として参加し、ただ観察するだけではなくメンバーとしての視点から色々なことを感じ、考えるという観察手法です。文化人類学や民俗学では一般的な手法です。
元々私の研究のメインテーマは、デザイン・コンセプトを作る方法を開発することでした。
デザイン・コンセプトと言うのは、そのデザインのおおまかなプロフィールのことです。デザインは「問題発見、問題解決のための思考作業およびその結果」ですから、デザイン・コンセプトも「そのデザインがどんな方法でどんな問題を解決するものか」についてのプロフィールです。
このプロフィールに必要な要素は、次の3つです。
・行動:そのデザインが役に立つのは、誰のどんな場面の行動に対してか?
・価値:そのデザインはどんな問題を解決し、どんな価値を提供するか?
・手段:そのデザインはどんな手段によって、価値を提供するか?
これは以前にもこのブログに書きましたが、このうち「価値」を決めるのはなかなか難しく系統的な方法がほとんどありません。どんな問題を解決するか?というプロセスですから、ユーザに起きている問題や隠れている要求を発見しなければなりません。これが難しい訳ですね。
デザインする側は、ユーザが無意識ながら「今困っていること」を生活から引っ張り上げて、それを解決するような何かを提案したい訳ですが、「今困っていること」を効果的に引っ張り上げる方法があまり研究されていないのです。
「今困っていること」を発見するには、ユーザにアンケートで聞いても分かりません。ユーザ自身が意識していないことがあるからです。例えば突然、
「今、何か問題はありますか?ここがこうなると助かるということはありますか?」
と聞かれても、なかなか咄嗟には思いつきません。これが何かの限定された場面でも同じです。
「入浴に関することで、何か問題や要求はありますか?」
「スマートフォンに追加して欲しい機能はありますか?」
と聞かれても、答えにくいはずです。
本人が意識していない要求や問題を引っ張り上げるには、実際に使用場面の観察をしたりインタビューをするフィールド調査が有効です。有効です、と書きましたがこれもまだ研究途上なので、現状では「有効であると思われます」としか言えませんが。
特に医用機器のように限られた場所で使用される専門的なものの場合、開発者は
「一体どんなニーズがあるのか?」
ということが分かりません。ここでは実際にフィールドに出るということが、大変重要になります。
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実際にBWHでは、技術開発の段階から開発者が医療現場に入っています。機器が使用されている手術室の中で医師や患者とコミュニケーションを取りながら、どこに問題があるのかを汲み取り、ラボに持ち帰って改良する、それをまた現場に持って行く・・・というループをしながら開発を行っていました。
ただし大学のラボで行うのは技術開発がメインです。基本的な技術を開発した後は、実際に製品化して社会に還元することになります。
「3D Slicer」を事例にすると、Aze社がこの「製品化」のプロセスを担当していました。ただしここで重要なことは、「3D Slicer」技術開発の段階から、具体的なフィールドの要求に対応して開発されたものであるということです。
そのため製品化する時には、技術開発メインで作られたものを実際の使用現場に合わせたユーザビリティにすること、実用に耐えうるものにすること、というクリアな(とはいえ難しいことですが)目的が設定されていました。
BWHで行われている開発方法は、先ほどの「参与観察」を基にしていると言えるかも知れません。フィールドに参加し、そこでメンバーの一員の視点から観察することで問題を発見するという方法です。これに基づいてコンセプトが作られていました。
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