病院の中に研究室があるということは、BWHの開発方法を可能にしている要因の1つです。これを「アメリカの医用機器開発現場のロケーション」として一概に括ることは出来ないと思います。
ただロケーションや環境に依らずとも、開発の初期段階から医療現場と密なコミュニケーションを取るということは、医用機器開発に必要なプロセスであるようです。これまでにBWH以外でも医用機器の開発方法を調査しましたが、形は違えども現場の要求と技術開発の緊密な関係というものが、他の製品開発よりも強くみられました。また複数の分野がコラボレーションしているというということも共通しているようです。
今年の3月に、フィンランドのデザイン会社・C社でインタビュー調査をした事例についてご紹介します。
C社が手掛ける製品は「家具から鉄道まで」、まるでレイモンド・ローウィのような幅広さです。ハードだけではなくサービスなどのソフトデザインも行っています。フィンランドは医療機器の貿易収支が大幅が黒字国として有名ですが、C社もまた医療機器のデザインを行っています。
私がオフィスを訪れた時、CEOに見せて頂いたのはC社が開発に関わったポータブル眼圧測定器でした。眼圧測定器は本来、据え置きの機械に目を当てて、吹き出して来る風で眼圧を測ります。移動しない機械に身体を当てるという意味では、レントゲン装置のようなものです。これを小さくポータブルにし、患者を移動させずに済むようにした装置を開発されたそうです。
まずはCEOに私の考える「デザイン」、「デザイン・コンセプト」の定義やモデル図をお見せし、コンセンサスを確認した上で開発のお話を伺いました。
CEO「私たちの会社はデザイン事務所と言っても、製品が出来るまでのコーディネイトをメインに行っています。この眼圧測定器は最初、眼科の医師がコンセプトを考えました。こういう物が欲しいってね。」
粂川「ということは、デザイン・コンセプトはフィールドから生まれたということでしょうか?」
CEO「そうです。それを沢山の組織でコラボレートして製品化しました。」
粂川「具体的には、どこでどのような組織が絡みましたか?」
CEO「最初は、そのコンセプトを実現出来る医療機器メーカーに持ち込み技術を開発して貰いました。それから小売りの販売ルートを開拓しました。医師、メーカー、販売ルートなど様々な組織が関係していますが、このマッチングをしたのが私たちの仕事です。」
粂川「デザイン会社の仕事というのは、コンサルタントに近いですか?」
CEO「フィンランドのデザイン事務所の多くは、色々な組織とネットワークを持っているんです。大学や病院、医師、メーカー、それから広告会社などです。そしてその都度、どことどこをコラボレーションすれば良いかのコーディネイトをするのです。」
粂川「具体的には、どのようにマッチングしますか?」
CEO「それぞれの組織の得意分野を見極めて、その時の目的に合わせます。あとは何度も全体で集まりミーティングをします。ミーティングは実際の作業が始まってからも定期的に行います。こうして皆で目的をシェアします。」
フィールドから要求を発見すること、コラボレーションすること。この2点はここまでに観察してきたBWHと同様の手法です。C社の場合は開発者はフィールドには行っていませんが、フィールドにいる医師から要求を汲み取っていました。
続いて日本での医用機器開発の事例です。これは光学機器メーカーで内視鏡の開発をしていた技術者の方に、インタビュー調査を行って聞いた話です。
当時そのメーカーでは「これから内視鏡を作ろう」ということは予め決められており、そういう意味ではデザイン・コンセプトを作る必要はありませんでした。ただそのメーカーは内視鏡の開発経験がなかったため、数年かけてどんなものなのかを調査したそうです。製品が完成してからは既に他のメーカーがマーケットシェアを殆ど占めており、市場に入り込むのにも苦労しましたが、偶然の幸運からなんとか顧客を増やすことが出来ました。
この技術者は、ここから単独でフィールドに入ります。手術に立ち合うことは出来ないので、手術後に器具を洗浄したり整備したりする作業をしながら、どこを改良するべきか考えたそうです。
この話も「日本の医療機器メーカーは」と一概にはまとめることは出来ないと思います。メーカーが100あれば100通りの開発方法があって然りですが、やはり「フィールドで問題を発見する」という点は共通していました。また工学系の技術者が医療現場に出るという意味では、ここでも多分野のコラボレーションが行われていると言えます。
ここで1つ考えなくてはいけないことは、フィールドにさえ行けば、誰でも問題を発見することが出来るのか?と言うことです。
この先は、この点について触れていきます。

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