問題とは?

ここまでの調査で、医用機器の開発プロセスには「フィールドで問題を発見すること」が重要であることが分かって来ました。実際の医療現場で医療特有の問題を発見し、それに対して技術的にアプローチを行うプロセスが必要なようです。
BWHは病院の中に工学系の研究室があるということで、より顕著かつ頻繁にこのプロセスを踏んでいます。でもBWHのようなロケーションでなくても、医用機器の開発では、何かしらの方法で「フィールドから問題を発見する」ことが行われていました(こちらのブログ参照)。

この「フィールドで問題を発見する」ということですが、このブログで何回も書いている通りなかなか一筋縄では行きません。フィールドに出てもぼんやりとしていたら、問題を発見することは出来ないのです。そしてこれまでのものづくりの中でも、このプロセスは経験豊富で勘の鋭い意識の高い人だけに出来ることでした。完全な「暗黙知」です。これを系統的な形式知にすることが出来れば、ものづくりは格段に進歩します。

ここからは「問題を発見する方法」にスポットを当てて考察、調査を進めて行こうと思います。
が、その前に。そもそも「問題」とは何でしょうか?その正体について考えてみましょう。
日本語の問題という言葉には、実は二つの意味があります。試験問題のような問題(クエスチョン)と、社会問題のような問題(プロブレム)です。ここで扱うのは後者のプロブレムの方ですが、この意味で何かに対し「これは問題だ」と感じるのはどんな時でしょうか?
今、私が感じている問題を例に挙げると
・肩こりが酷い
・白髪が増えた
・住民税が高い
もちろん他にも沢山ありますが、とりあえずこれを分析してみます。

肩がこっていることの何が問題かと言うと、実はこれが今後何か大きな問題に発展する訳ではありません。よく「○○で死んだ人はいない」という表現が使われますが、肩こりもまさにそれで、どんなに肩がパンパンでも死ぬことはありません。日常生活も勿論普通に送れます。
ただなんとなくスッキリしません。肩がこっていなければもっと楽なのになぁ・・・と思います。

続いて白髪が増えたこと。これも別に死ぬ訳ではないですし、白髪が原因で職場をクビになることもありません。ただかつての黒々としていた髪の毛を思い出すと、「白髪がなければなぁ」と思います。

最後の住民税が高いこと。これが多少深刻です。最近の住民税は都民税+区民税を合わせると、前年の手取りの10%も納めなければならないので、毎回かなりの大打撃を受けます。給与明細を見て
「ええー!!なんでこんなに少ないの!?何かの間違いじゃ・・・あ、住民税か。」
と慌てふためいた経験のある方もいると思います。ただこれも生活出来ないほど納める訳ではありません。住民税がもうすこし少なければ出来ること     もう少し良い家に住むこと、新しいスーツを買うこと、趣味にお金を使うこと、こういうのが出来なくなるというだけです。
もしもどうしても住民税が高くて生活が維持出来なくなってしまったとしても、今の仕事を辞めて全部捨て実家に帰ってひっそり暮らせばなんとかなります。仕事を辞めれば翌々年からは住民税も払わなくてよくなりますしね。

こう考えてみると結局私の問題というのは、実はどれもたいしたことではなく、私の「出来ればこうであればよいな」という願望が叶っていないだけということになります。要するに、気の持ちようですね。

とは言えここに挙げた問題はどれもあまり深刻ではないので、もう少し大きな問題について分析してみましょう。
私の足は小さいのでサイズの合った靴が見つかりません。それで普段はサンダルかブーツを履いていますが、仕事でハイヒールを履かないといけないこともあります。
ハイヒールは少し大きい物を履いていますが、内側が下り坂のようになっているので、サイズが合っていないと歩くたびに足が坂道の上をスライドします。歩き始めてトータルで20分くらい過ぎると、突然足の裏が焼けたように痛くなります。スライドの摩擦で火傷のようになってしまうのです。こうなると一歩も歩けません。

この問題は、少し深刻です。少なくとも白髪よりは。
でも、足の裏が痛くて歩けないことの何が問題なのでしょうか?痛いなら歩かなければ良いし、それで仕事ができないなら仕事を辞めれば良いのです。そうまでして仕事をしているのは、「まともな生活がしたい」「人から尊敬されたい」「生き甲斐を感じたい」という欲があるからです。
または心頭滅却すれば良いのです。「人の一生は重き荷を背負いて遠き道を行くが如し 焦るべからず 不自由を常と思えば不足なし」という位だから、足は痛くて当たり前だと思えば良いのです。まともな生活なんて出来なくて当たり前だと思えば良いのです。生き甲斐はなくて当たり前と思えば良いのです。

と、こうなってくるとどんどん極端になって行きますが、突き詰めて考えると「問題」というのは、【こうしたい】という欲望があるのにそれが叶っていない状態のことだと分かります。以下に私の問題をもう一度整理すると

肩こりが酷い :【すっきりした肩で楽々生活したい】が、叶っていない
白髪が増えた :【白髪がなく黒い髪が良い】が、叶っていない
住民税が高い :【もう少し贅沢したい】が、叶っていない
足よりも靴が大きい:【ハイヒールで普通に歩きたい】が、叶っていない

ここで上に書いて来たように「こうしたいと思わなければ良い」というのも1つの考え方です。「こうしたい」というのは全て「煩悩」と言うのですよ、これが無くなれば問題も消えますよ、全てをあるがままに受け入れれば・・・というのは仏教の悟りの考え方ですね。道教の仙人も悟りに近い存在と言えるかも知れません。

ただ、欲望を全て消すのは至難の業です。仏教でも道教でも、この境地に達することが出来るのは、何年もの厳しい修行をした一部の者だけです。

欲望を消すのは難しいので、世の中には問題が溢れている訳です。
問題とは、まだ満たされていない要求のこと
こう考えると、問題を発見するには「満たされていない要求」を探せば良いことが分かります。

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About mikikumekawa

粂川美紀 Miki Kumekawa 千葉大学大学院工学研究科デザイン科学コース特任助教時代に、独立行政法人日本学術振興会「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」基金により、米ハーバード・メディカル・スクール ブリガム&ウイメンズ病院に客員研究員として滞在しました。このブログはその時の記録です。
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