日本の医療機器開発の現場

このブログを書き始めて、沢山の人から
「日本の医療機器開発の状況がどうなっているのかを知りたい」
というご要望を受けていました。

そもそも私がこの研究を始めるきっかけとして、「日本は医療機器の貿易収支が、慢性的に大幅な赤字である」ということがありました。テクノロジー大国の日本で、何故このような状況が起るのか。状況を詳しく文献で調べて行くうちに
(1)内視鏡や画像診断機器などの診断用機器は作っているが、治療用機器の市場が弱い
(2)医療機器開発の現場と臨床現場が離れているため、機器のコンセプトが作れない
ということが見えて来ました。

そこで今回、東京女子医大の特任助教で、現在波多先生のもとに出向・研究されている吉光喜太郎先生にお話を伺いました。吉光先生は私を波多先生にご紹介して下さった、千葉大学工学部メディカルシステム工学科の中村亮一准教授ともお知り合いです。

まずは、東京女子医大の研究環境について教えて頂きました。

「東京女子医大では、FATSという研究室に所属しています。ここでは脳外科医、放射線技師、工学者、薬学博士、臨床心理士が1つのチームとして、同じ部屋にいます。机も近いですよ。隣の机にお医者さんがいるんです。専門は違うけど同じ目的を持っているので、反発しあうことはありません。『オーシャンズ11』のような環境です。」

吉光先生は学部では生命工学、大学院からロボティクスを専攻されたそうです。吉光先生はゼロから1人で設計し組み立てて行くそうです。

「学生の時の医用ロボットは、臨床で試すということは出来ませんでした。理由は、現場をよく知らずに作った物だったと言うこともあります。現場で使えるものでは無かったんです。病院と共同研究していましたけど、医師とは週に1度ミーティングするだけでしたから、全然足りませんでした。」

東京女子大に就職されてからは、最初の1年で医学部の6年間のカリキュラムを濃縮した授業を受けたそうです。

「これは医療機器メーカーの人も受けに来ていますよ。最初は人体解剖から始まります。今は朝の回診も医師と一緒に回りますし、診察室にも入ります。」

吉光先生はロボットだけでなく、Opectという手術向けの画像操作システムも開発されました。これはMicrosoft社製のゲーム機「Kinect」を利用した製品です。手術中の画像操作が、何にも触らずに身体の動きだけで出来るというものです。

こちら↓がそのOpectです。実際の動きを観て頂いた方が分かりやすいと思います。
(※ブログへの埋め込みが無効になっているため、お手数ですが再生ボタンをクリックした後に「You Tubeで見る」をクリックして御覧下さい)

「映画『マイノリティ・リポート』に、手の動きだけで画像を操作するシーンがあるんですけど、脳神経外科の先生がそれをやりたいと思ったそうです。それで作ってくれと言われて、2009年にプロトタイプを作りました。手に動きを感知するマーカーを付けて操作するんですけど、医師に臨床では使えないと言われました。それでちょっと落ち込んで、違う研究をしていたんです。それが2010年にMicrosoft社からKinectが発売されたので、これで出来るとなって。そこからまた作り始めて、2012年には製品化されました。」

Opectは、あちこちのメディアでも取り上げられているので、知っている方もいらっしゃるかも知れません。最初にニーズだけあったものに、後からそれを実現するシーズが出て来てうまくマッチングした事例と言えます。

吉光先生には、医療機器を取り巻く社会的状況のお話も教えて頂きました。

「日本はやっぱり、治療用機器開発が弱いです。技術的に作れないということは無いです。作れるけど製品化されないんです。医療機器を製品化する際の評価基準が曖昧ですし、怖くて誰も手を出さない。最近PMDA(医薬品医療機器総合機構)が標準化を進めているので、段々状況は変わって来るとは思います。」

写真の右が吉光先生、左が時々名前だけ登場していたジェイです。

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ありがとうございました。

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About mikikumekawa

粂川美紀 Miki Kumekawa 千葉大学大学院工学研究科デザイン科学コース特任助教時代に、独立行政法人日本学術振興会「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」基金により、米ハーバード・メディカル・スクール ブリガム&ウイメンズ病院に客員研究員として滞在しました。このブログはその時の記録です。
カテゴリー: トランスレーショナルデザイン, 学際 パーマリンク

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