手術の観察 前編

無事にAMIGOの研修を終えた私は、昨日初めて手術の観察調査をさせて頂きました。

と言っても私が観察したいものは手術そのものではありません。臨床現場にエンジニアが入り、そこで開発の要求を得る、または作ったものをテストするというBWH(ブリガム&ウイメンズ病院)特有の環境での「開発のようす」が観察対象です。
そしてエンジニアである波多先生やサムさんが、どんな風に医師の要求を汲み取っているのかを調査させて頂けることになりました。

最初はこんなことが実現するとは思っていませんでした。話を聞かせてもらうだけでもありがたいと思っていました。ものづくりの方法論を研究している人は沢山いますが、実際のものづくりの現場に張り付いて観察調査やインタビューをし放題という報告は、聞いたことがありません。特にメーカなどの企業は、こういう部分は閉じています。しかも病院のような特殊な場所での開発を、すみずみまで(会議から手術まで)見せて頂いたのは、世界に沢山デザイン方法論の研究者がいようとも、おそらく私一人だと思います。

全部波多先生のお陰で実現したことです。シャドーイングから手術室の見学、ソルトレイクシティでの豪華キャストへのインタビューなどなど、次々と大胆な提案をする波多先生にはじめはいちいち驚き、
「え、そんなことしていいんですか?」
と聞いていました。そして毎回、
「ええんちゃうー?なんでダメなの?」
「(インタビューする人などに)どうせもう二度と会わへんやん」
と言って頂き、そのうち段々とこの「波多イズム」に馴染んできました。

そして手術中の開発について、エンジニアの思考プロセスを調査させて頂くのに、波多先生にお願いしました。なんだか面白い発想が出て来そうですし、これまでに聞いた開発の話もとても面白く、そして私が知りたいこともよくご存知だからです。

こちらがAMIGOの扉です。

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中の撮影は控えましたが、今日も「Facebookに皆の写真を載せたい!」というスタッフのために、全員でこの中で記念撮影をしたりもしたので、スタッフだけならば撮影も可能のようです。患者さんは写してはいけない、というのは病院のオリエンテーションで注意されました。それにしても、なんともオープンですね。

後半に続く。

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You are friend of AMIGO !

このブログでもおなじみになりつつあるTinaの部屋の扉に、一枚の紙が貼ってあります。その紙に

Tina Kapur (※Tinaのフルネーム)
You are friend of AMIGO !

と書いてあるのを見た時、なんだこれは?と思うと同時に「You are friend of AMIGO !」という語感の良い表現がすっかり気に入ってしまいました。そのまま意味を考えれば「あなたは友達の友達です!」と言っているのだから何かおかしいですが。その時はそこまで考えませんでした。

そして研究室に通い出して2日目、私はあることに気付きました。皆が首から下げている病院のIDカード・・・のストラップと、自分のストラップが何か違うような・・・。
これまでの写真をダイジェストで見てみますと、↓(すべて既出の画像のため小さく表示してあります。クリックで拡大出来ます)
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少し分かりにくいですが、皆のストラップは緑色です。でも私のストラップは紺色でした。これは最初に病院のオリエンテーションを受けた時に、IDと一緒に貰ったものです。ブリガム&ウイメンズ病院のマークと名前入りです。
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そして実は、他の人のストラップにはブリガム&ウイメンズ病院のマークの他に「AMIGO」とも入っていました。またAMIGO・・・。
何か分からないけど、私もAMIGOになりたいと思い、知り合った早々にTinaと、何故か本ブログ未登場のジェイ(実は結構よく話す)に聞いてみました。

「なんで二人のストラップはAMIGOって書いてあるの?私のは何も書いてないんだけど・・・。」
「あー、これ?私たちはAMIGOなの!フレンドフレンドー。MikiもAMIGOになれば?」

当時は全く意味が分かりませんでしたが、AMIGOというのは実はBWHの地下2階にある手術室のことです。「The Advanced Multimodality Image Guided Operating (AMIGO) suite」と言う名前なので、これらの頭文字を取って「AMIGO」です。要するに手術室なのですが、普通の手術室と違うのはCTやMRI、PETなどが手術室内にあるということです。
と言っても、健康な人にはピンと来ないかも知れません。手術室なんだからCTとかMRIとか、色々あるのが当たり前なんじゃないのか?という感じもします。が、通常の手術室にはCTやMRIはありません。こういう特殊な写真は、それ専用の部屋で撮影するものです。装置もものすごく大きく備え付けで、気軽にひょこひょこ持ち運べるものではありません。

手術室にCTやMRIがあるということは、手術しながら身体の中の写真を取ることが出来るということです。こういうことが出来ると、いちいち身体を開かなくて済むので、内視鏡で出来る手術や病変組織の検査、または難しい部位の脳腫瘍の摘出など、治療の幅が広がります。

こちらがそのAMIGO
すごいのは、MRIの中に患者さんを入れたまま手術をしたりも出来ることです。そして手術内容によってMRIが移動出来るように、普通のMRIを逆さまにして天井からつり下げていることです。

最初にAMIGOに入った時は、かわいらしい名前に反して「ギュゴーーーー」と大きな音を立てているメカメカした部屋の様子に、なんだかSFアニメみたいだと思いました。かわいらしい名前をしたすごいメカ、というのがSFのお約束だからです。

このAMIGOで手術に立ち合うには色々な手続きが必要です。
・身体に金属を埋め込んでいないことを証明する書類の提出
CITIのweb講義の受講、試験
・AMIGOのweb講義の受講
・AMIGOのオリエンテーションの受講

クリスマス休暇や、先週ずっとソルトレイクシティに行っていたこともあり、やや遅れましたが、私も今週無事に全てが修了しました。
そして修了と共に貰ったのが、あのAMIGOストラップでした。
最後のオリエンテーションの先生だったジャニスに、IDカードにAMIGOシールも貼ってもらいました。

「I’m friend of AMIGO!」
とジャニスに言ってみたら
「Yes, you are our AMIGO ! 」
と言って頂きました。

こちらが晴れてAMIGOストラップになったIDカードです。右上の小さいオレンジ色のシールが AMIGOシールです。このシールがAMIGOに必要な手続きや講義を受けた証明になっています。
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アジャイル・ディベロップメント

ソルトレイクシティのワークショップでインタビューしたことを、途中で波多先生に報告しました。

ユーザの要求を抽出するために繰り返し繰り返しテストすること、繰り返し現場の状況を反映すること。これはトランスレーショナル・リサーチの重要なファクターです。ティナ、ステファン、スティーブ・パイパー、ビル・ローレンセン、ブルーメンフェルド、そしてサムさんも含めて全員が、同じ手法を取っていました。現場の状況をどう反映するかは人それぞれです。医師や技師と対話をする人、ブレインストーミングをする人、その場で意見を取り入れてどんどん開発する人など。

スティーブ・パイパーはこのプロセスについて、
「現場で評価しながら、少しずつ機能を付加していく」
ということを言っていました。

・・・ということを波多先生に話したところ、
「アジャイル・ディベロップメントや!」
と言って、説明して下さいました。その後、自分でも調べてみました。

アジャイル・ディベロップメントは日本では「アジャイルソフトウェア開発」として知られているようです。
分かりやすく言うと、ソフトウェアの開発において、開発とテストを短期間で繰り返す方法です。
以下にアジャイルソフトウェア開発について詳しいサイトをご紹介します。

従来の開発方法との比較をしたサイト
アジャイル・ソフトウエア開発宣言についてのサイト

アジャイル・ソフトウェア開発宣言とは、2001年にアメリカのソフトウェア開発者が集まり(奇しくも場所はユタ州だったそうです)、それぞれが行っていた開発方法の統廃合について議論したものをまとめた文書です。

・プロセスやツールより人と人同士の相互作用を重視する。
・包括的なドキュメントより動作するソフトウェアを重視する。
・契約上の交渉よりも顧客との協調を重視する。
・計画に従うことよりも変化に対応することを重視する。

原則は以上の4つです。
また次の12の原理があります。

・ソフトウェアの早期,継続的な納品により, 顧客の満足を達成することが第1優先である.
・開発の終盤であろうとも、要求内容の変更を歓迎する. アジャイルなプロセスは, 顧客の競争上の優位性のため, 変化を制する.
・数週間から数ヶ月間のサイクルで動作するソフトウェアを納品する. サイクルは短い方が良い.
・ビジネス側の人間と開発者がプロジェクトを通じて日々協力をしなければならない.
・志の高い開発者を中心にプロジェクトを編成する.必要な環境や支援を与え, 任務をやり遂げることを信じなさい.
・開発チームの内外でもっとも効率的で、効果的な情報伝達を行う手段は, 顔をつき合わせて話し合うことである.
・動作するソフトウェアが, 主たる進捗の確認手段である.
・アジャイルなソフトウェア開発は、持続的な開発を促す. 開発資金の提供者、開発者、ユーザは、必ず一定のペースを守れるべきである.
・技術力と良い設計に絶えず気を配ることで、機敏さは向上する.
・不必要なことを行わない技能である簡潔さは、本質的である.
・自己組織化されたチームから最善のアーキテクチャ, 要求, 設計が生まれる.
・定期的に、チームはもっと効果的になる道を考え、開発の進め方を調和させ, 調整する.

ソルトレイクシティにおけるインタビューで分かったこと、それからオープンソースの利点も含めて、アジャイルソフトウェア開発と非常によく似ています。
特にBWHの医用機器開発は下に示すように、ソフトウェアに限らず、アジャイル・ディベロップメントの手法を取っています。

・プロセスやツールより人と人同士の相互作用を重視する。→医師とエンジニアがコラボレートして開発していること
・包括的なドキュメントより動作するソフトウェアを重視する。→※現時点では不明。これから確認します。
・契約上の交渉よりも顧客との協調を重視する。→ユーザである医師と共同で開発していること
・計画に従うことよりも変化に対応することを重視する。→ラボで開発しすぐに臨床現場で試験していること

ところで・・・。
これがBWHで実際にどう行われているのかは見て来ましたが、完全に一致している訳ではありません。アジャイル・ディベロップメントはソフトウェア単体の開発ですが、BWHはソフトウェアとハーウェアの両方の開発をしています。
また臨床現場でエンジニアがどのように顧客(ユーザと言えます。ここでは医師)の要求を抽出しているのか、などもとても気になります。

これからこのことについて調査して行きたいと思います。

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インタビュー結果6:オープンソースについて

インタビューでは、オープンソースについての考えも質問しました(質問の目的はリンク先をご参照ください)。
ただし、これは全ての方に質問出来た訳ではありません。ワークショップの合間にインタビューしていたので、あまり時間の取れず最後まで質問出来なかった方もいたためです。

Kitwareのwikipediaでキーパーソンとして紹介されているステファンのお話です。

「オープンソースは素晴らしいツールです。ユーザが自由に参加出来て機能を拡張出来ます。ソースをオープンにしていることで、利益が減るんじゃないかって?そんなことは無いですよ。企業にとっては、自社の良い宣伝になりますからね。オープンソースは自然にどんどん拡散する、とても良い宣伝です。」
「ユーザが参加出来るということは・・・まさにユーザ・センタード・デザインの開発が出来ると言うことでしょうか?」
「そうですね!オープンソースはそういう可能性を持っています。ユーザの要求をダイレクトに反映しますからね。そして繰り返し繰り返し開発をして、機能が付加できることも魅力です。」

これまでにもオープンソースについて、
・研究成果が社会へ還元出来る
・ユーザが開発に参加出来る
という意見を頂きましたが、ステファンの「オープンソースは広告として、企業の利益になる」という視点はとてもユニークでした。
またユーザの要求がダイレクトに抽出できるという利点は、シーズをユーザのニーズに結びつけるトランスレーショナル・リサーチでは、とても有効なことです。

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インタビュー結果5:ユーザ要求の抽出

ところで、「トランスレーショナル・リサーチ」と言えば、シーズ(技術、基礎的知見)とニーズ(要求・問題)を結びつけることです。

スティーブ・パイパーは要求の抽出手順について、
「私たちの一番大きな要求は、患者を危機にさらさないこと。これが一番重要なことです。だからそのために、色々なテストをします。ユーザの要求といえば、医師がいかに患者を危機にさらさないか、これが一番大きい要求であり、開発の目的ですよ。患者はユーザじゃないかって?確かに患者にも身体的な限界があったり、そういうのは要求と言えますが・・・でも彼等は手術中は寝ているのでユーザビリティは考えないですよね。」
と言っていました。

他の製品は、ユーザの多様な要求を汲み取ることがポイントになります。近年の製品開発が複雑になってきた理由の1つに、生活者の価値観が多様化したことがあります。高度経済成長の時代なら、どんなものでも「よりコンパクトに」「よりスピーディに」というコンセプトの元に開発されていました。それが段々と従来の価値観と平行して、「スローライフ」「エコロジー」「ロハス」「個性的」「懐古主義」「キッチュ」「健康志向」などなど、様々なコンセプトが求められるようになって来ました。

この点他の製品と違い、医用機器は
・患者を助ける
という大きな揺るがない目的があります。
医用機器にはにはユーザが2人いて、1人は医師。もう1人は患者ですが、この2人の要求は必ずしも一致するとは限りません。例えば患者が、
「もう苦しいから、臓器を全て切除して下さい。」
「安楽死させて下さい。」
こういうことを言い出しても、医師はその要求を尊重する訳には行きません(安楽死が認められている国もありますが、ここではアメリカの話をします)。これはCITIで医学の倫理について学んだ時にも出て来たことですが、医師には患者の命を守る義務があります。そして医用機器の最大の使命も、患者を助けることです。すなわち開発のコンセプトも途中途中のテストも全て
「患者を助けられるか?」
ということが重要なポイントになります。

実はこれは、波多先生が以前にお話ししていたこととも一致しています。

「僕は人生の目標を紙に書いているんやけど。色々あるよ、家庭のこととか。研究では1人でも多くの患者さんの命を救うこと。1人でも多くの患者さんの命を救ったら、それだけ僕が生まれて来た意味があるということでしょう。」

今回インタビューした人達のお話は、皆色々な立場ながらも同じ方向を向いています。これは医用機器の開発が「医」というもののシンプルかつ強い目的である「人の命を救うこと」という方向に向かっているからでしょうか。

ビル・ローレンセンにもユーザ要求抽出の方法を質問しました。

「それは、医師と話をしたり、一緒に開発をする上で気付いて行きます。プロトタイプのアイデアに対して、意見を言ってもらえますからね。」
「そのプロトタイプのコンセプトを最初に作る時はどうするんですか?ユーザの潜在的な要求が基になっていると思うのですが。アンケートでもユーザ要求は発見できます、マーケティングの手法にもありますし。でも、それで見つかるのは実は顕在的な要求です。アンケートを作る時に、既に予想していた要求です。」
「うん、そうだよね。潜在的な要求を見つける方法はね、フランク知ってるでしょ?彼に聞くと良いよ。」
「はっ!フランク・・・。」

フランクというのはFerenc. A. Jolesz M.D.。このブログではすっかりおなじみの、会議中にモシャモシャ朝ご飯を食べる、あの小さいおじいさんです。
マーチング・キューブス法をはじめ、アルゴリズムでアメリカ最多の特許を保持するビル・ローレンセンの口から出たのは、意外な名前でした。

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インタビュー結果4:トランスレーショナル・リサーチの手順

今日はインタビューで明らかになった、トランスレーショナル・リサーチの手順についてご紹介します。

以前、サムさんへのインタビューでご紹介した3ステップですが、これとほぼ同じ手順を踏んでいたのがスティーブでした。サムさんはメカニカルエンジニア、スティーブは形成外科手術のイメージソフトなどを開発していたソフトウェアエンジニアです。ハードとソフトの違いはあるものの、この2人のトランスレーショナル・リサーチの手順はとても似ていました。

以下、スティーブのお話です。

「まずコンセプトからプロトタイプを作って、早い段階で現場に持って行きます。そして医師と相談して、テストしながら開発を詰めて行きます。今私はBWH(ブリガム&ウイメンズ病院)で開発していますから、これが簡単に出来ます。」

それからバーでお話ししたビル・ローレンセンも同じことを言っていました。

「まず、アイデアが浮かんだら医師に会いに行きます。そして話をしてプロトタイプを作り、何度もテストします。」

作るものがハードであろうとソフトであろうと、早い段階で現場をよく知る医師を話をすること、または自分で現場に持って行くこと。そしてテストしながら開発すること。このブログで再三書いて来たことですが、

・現場の状況に合わせて開発すること
・現場でテストしながら開発すること

この二つのことがトランスレーショナル・リサーチにおいては非常に重要なプロセスであることが分かります。

また、この先にある製品化についても、スティーブはサムさんと同様に
「製品化するには、更なる詰めが必要ですが、これは企業が行います。」
と言っていました。
サムさんも、製品化は企業が行うことだと言っていました。実はサムさんはこれについて次のような理由を教えて下さいました。

「大学はアカデミックな開発をします。目的は理論を作って、論文を書くことです。企業は製品を売ることが目的ですから、根本的な目的が違います。だから担当する部分も違います。」

この話をそのままスティーブに話したところ、

「ああ、サムがそう言っていたの?そうそう、そうなんだよね。だから例えばオープンソースも・・・時には企業にとっては難しい部分があって、ソースを公開してしまうから、お金を儲けるということにつながらないという意見もありますね。」

スティーブは大学でも企業でも医用機器開発をしているので、その立場からのお話でした。
この企業とオープンソースについては、また別のブログで詳しく書きます。

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インタビュー結果3:トランスレーショナル・デザインの秘訣

今回のインタビューで「あなたのトランスレーショナル・デザインの方法について教えて下さい」という質問をしました。この問いに対し、手順を教えてくれた人、それから秘訣を教えてくれた人など、回答は様々でした。

秘訣について、Kitwearのステファンは
「仲間と楽しく仕事をすること 沢山話して、コミュニケーションを取ることです。仲間というのは医師も含めてですね。仲間と話すことで見つけた問題は、出来るだけ早く解決します。いちいちオフォスに持ち帰って解決するとは限りません。」

実は、私が最初にステファンに会ったのは今回のワークショップではなく、半月ほど前、BWHのMRIとCTのある部屋でした。その部屋には手術室と、手術室の手前にガラス越しになっている部屋にモニターがあり、そこで手術中にMRIやCTの画像の処理などをします。山田先生も、手術に立ち合う時にはそこで作業をするそうです。ステファンも水色の服を着て、そこで作業をしていました。Kitwareの社員ですが、BWHで開発をしているそうです。
このことについてステファンは
「BWHで開発をするということは、医師と共同で開発が出来るということです。」
と言っていました。

ブルーメンフェルドは
「トランスレーショナル・リサーチのためには、医師と話をすることです。沢山の会話、これが一番重要です。それから現場の要求を何よりも先に見つけて、それを基に開発をすること。開発よりも先に要求を見つけること。これが重要です。」

日本語にするとなんだか味気ないですが、彼は常に一人称を「I(私)」ではなく「You(あなた)」にして、「You should talk with・・・」「You should find ・・・」と言う表現で、一言一言丁寧に、まさに助言を下さいました。ハリー・ポッターのダンブルドアがハリーに、もしくはスターウォーズのヨーダがルークに知恵を授ける時のような、厳かながらもリラックスした雰囲気でした。

どうやって先に要求を見つけるのか、ということについては
「医師と話しなさい。出来るだけ沢山ね。話して話して話して・・・その中から要求を発見しなさい。」
とのことでした。

ところでブルーメンフェルドはGE時代、やはり病院でCTの開発を行ったそうです。
「私はとても幸運でした。家内の弟が医師で、新設の病院に赴任したのです。まだ患者もいない、設備もない病院にね。私はその何もない新しい病院で、機器を開発をしました。」

新しいことをするには、それを受け入れてくれる環境がなければ出来ません。トランスレーショナル・リサーチにおいては特に、医師がエンジニアを受け入れることが重要なファクターであるようです。これは波多先生がいつも仰っていることでもあります。

またIsomics,Inc.のスティーブによると
「医用機器の開発で一番重要な問題は、patient’s crisis(患者の危機)です。これが何よりも重大なことです。私たちは開発の各フェーズで、開発している危機が患者に危機を及ぼすかについて評価する必要があります。」
とのことでした。

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インタビュー結果2:方法

インタビュー調査はどんな時に行うかと言うと、
・仮説を作る時
・潜在的な構造を明らかにしたい時
などです。

これに対してアンケート調査は、
・仮説を検証する時
などに行います。もちろん、アンケート調査でも多変量解析などでは潜在的な要素を明らかにすることが出来ます。ただしこの場合も、アンケートを作成する時点でなんらかの仮説を持っていないと作成出来ません。
これから調査することについて、本当に何も分からないから、とりあえず・・・という場合に行われるのがインタビュー調査もしくは観察調査です。

インタビュー調査にも色々な方法があります。
例えば専業主婦の家事の実態について知りたいとします。この時、
「あなたの日常の家事について、自由に話して下さい」
とだけ言うと、相手によっては有益な情報をどんどん話してくれるかも知れませんが、話すのが苦手な人の場合には、質問が抽象的過ぎて何を話したら良いのか分からない・・・ということにもなりかねません。また、話がずれて行ってしまう場合もあります。

そこで、もっと細かく質問を用意するとします。
「あなたはどんな家事をしますか?洗濯はしますか?料理はしますか?掃除はしますか?」
「洗濯についてどう思いますか?面倒ですか?どこか面倒ですか?すべて1人でしますか?子供や夫は手伝ってくれますか?」
これだと相手は答えやすい反面、アンケート調査のように想定内の回答しか得られません。「自分が知らないことを知る」ことが出来なくなってしまいます。

この中間がが、「エピソードインタビュー」です。これは知りたいことについて、あらかじめある程度の質問を準備して行く方法です。質問はざっくりしており、自由に話して貰いながら、時折用意した質問を入れることで話がそれること、発話しにくいことを回避します。
今回はこの「エピソードインタビュー」という形式をとりました。

質問は
「トランスレーショナルリサーチについて」
「あなたのトランスレーショナル・リサーチの方法は?」
「オープンソースの特長についてどう思うか?」
これに、話の進行によって他にも質問を入れました。

この方法は高齢者や主婦へのインタビューにおいて、これまでにもよく使用して来ました。
日本人の場合は話が続かないか、長くなってどんどん脱線してしまうことが多いので、この方法は便利でした。
ところが今回は皆どんどん話して下さったので、途中で自由発話でも良かったかと思いました。とにかくアメリカの人達はよく喋ります。それも支離滅裂に思いついたまま話すのではなく、きちんと理論的にまとまった話が進みます。メンバーも皆、理論的な仕事をしている人達だったので余計でしょうけど。
ただ、最終的にはこの手法で良かったです。今回はワークショップの合間をぬって行ったインタビューだったので、時間的な制限がありました。自由に話して貰うよりは、ある程度質問をしながら答えてもらう方が、時間のコントロールがしやすいということが分かりました。
これはエピソードインタビューの利点として、今回あらたに気付いたことでした。

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インタビュー結果1:インタビューした人

ソルトレイクからアリゾナを経て、やっとボストンに戻って来ました。落ち着いたところで今回から医用画像のワークショップにおけるインタビューの結果をまとめて行こうと思います。

まずはインタビューをさせて頂いた人達について、もう一度詳細にご紹介します。

………………………………………………………………
1 Tina Kapur(ティナ)
PhD(コンピュータ・サイエンス)
GEを経て、現在はハーバード・メディカル・スクール BWH(ブリガム&ウィメンズ病院)のSPLラボに勤務。
婦人科系手術に特化した、3D Slicerのアドオン「iGyne」を開発。
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インタビューした場所:会場廊下のテーブル

………………………………………………………………
2 Steve Piper(スティーブ)
PhD(コンピュータ・サイエンス)
UCバークレーを卒業後、形成手術イメージの画像支援技術の開発でMITで博士号取得。
その後はダートマス、UCバークレー、MITで教鞭を持ったあとIsomics,Inc.を設立、現在もCEOを務める。
インタビューした場所:会場廊下のテーブル

………………………………………………………………
3 Stephen R. Aylward(ステファン)
PhD(コンピュータ・サイエンス)
Kitware社のシニアディレクターで、オープンソースによる画像処理ソフトの開発に従事。Kitware社はオープンソースソフトウェアの開発を主としており、医療画像処理ソフトだけでなく、学術用、政府、民間企業へに多くのソフトウェアを提供。
インタビューした場所:空いていた会議室

………………………………………………………………
4 Morry Blumenfeld(ブルーメンフェルド)
PhD(分子物理学)
GEに30年以上に渡り勤務後、2002年に引退。GEにおいて初期のCT及びMRIの開発に従事。
Aposense、 MAKO Surgical、Oridionなど、数々の企業の取締役を務める。
インタビューした場所:空いていた会議室

………………………………………………………………
5 William Lorensen(ビル)
GEの「The Visualization and Computer Vision Lab」の研究者、開発者。マーチング・キューブズ法の開発者であり、オブジェクトモデル化技法の開発者の1人でもある。
ソフトウェア技術に関する30の特許を取得している。
インタビューした場所:バー

………………………………………………………………

錚々たるメンバーですが、波多先生にご紹介して頂き、皆さんにインタビューさせて頂きました。

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Route 66

ソルトレイクシティからボストンに戻る途中、乗り継ぎ便の都合でアリゾナ州フェニックスで1泊することになりました。飛行機を予約した時に、一番安い便がこの「フェニックスで1泊」という便だったからです。勿論ホテル代は別に払いますが、それでも相当割安でした。

ユタ州とアリゾナ州は隣同士ですが、フェニックスの空港を下りた瞬間、大雪のソルトレイクシティとは全く違う、春めいた空気が漂っていました。暖かい・・・。ホテルのシャトルバンを待つ間に、暑くてコートは着ていられなくなりました。

シャトルバンの運転手はしゃがれ声のおじさんで、
「今日は寒くてやってられないよ・・・なに!?暑い?HAHAHA!」
と笑っていました。バンの中はジャズがかかっていました。

アリゾナ州はメキシコとの国境に位置しています。ホテルまでの道中で、柱のような大きなサボテン(その名もハシラサボテン)が生えているのを沢山見ました。道路脇の赤い砂地からごく自然な様相で生えていました。
乾いた暖かい空気、赤い砂地、ハシラサボテン、まっすぐのアスファルト、陽気な運転手、ジャズ、遠くに見えるゴツゴツした山、煙草を吸う人達、バイク、寂れたガソリンスタンド。なんだかビートニクの匂いがしました。それもそのはず。アリゾナ州はかつて、廃線になった古き良き国道・ルート66の有名な通り道でした。ということに、実はバンの中でやっと気付きました。シャトルバンがルート66の近くを通った訳ではありませんが、辺り一面の空気がビートニクの雰囲気だったからです。

ホテルは予定調和的にモーテルのような造りをしていました。名前もきちんと「○○ Inn」です。駐車場にはもちろんバイクが停まっています。モトクロスやスポーツタイプではなく、アメリカンでした。

「百聞は一見に如かず」とはよく言ったもので、脳内に点在していたルート66の知識やイメージが、アリゾナの空気の中でぽつぽつつながりました。

昔読んだジャック・ケルアックの「路上」。あれは確か、ニューヨークからメキシコまで車で旅をする話でした。シカゴからは主人公達はルート66を通ったはずです。

ナット・キング・コールのカバーで知られた「ルート66」も、いつも無意識に口ずさんでいましたが(古風なタイプ)、

♪ It winds from Chicago to L.A.・・・
♪ ・・St,Louis, Joplin’ Missouri And Oklahoma city is mighty pretty
You’ll see Amarillo, Gallup, New Mexico, Flagstaff, Arizona
Don’t forget Winona, Kingman, Barstow, San Bernardino

と、歌詞に出て来る地名が、ちゃんとシカゴからロサンゼルスに行くまでのルート66の道順通りになっています。

そして大好きなポール・ニューマンの密かな遺作・アニメ映画「カーズ」の舞台も、こんな雰囲気の街でした。砂漠とグランドキャニオン、モーテル、サボテン、エンディングは確か「ルート66」だったような・・・。
調べてみると、カーズの舞台「ラジエーター・スプリングス」はアリゾナ州の町がモデルになっているようでした。どの町かは諸説あるようです。

本当に偶然立ち寄った街でしたが、大好きなビートニクやナット・キング・コールの世界が詰まっていて、思いがけず楽しく過ごせました。
空港にはこんなお店もありました。
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ナット・キング・コール・トリオ「Route66」

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