アメリカはクリスマス休暇中です。既に昨日から、どこにもあまり人がいません。日本のお正月のようなもので、お店も閉まっているところばかり・・・。何も知らずに食事しようと外に出て、1時間近く歩き回る羽目になりました。
私も今週は研究室をお休み中です。当然シャドーイングも出来ないので、昨日に引き続きここまで見て来たことについて一度整理しようと思います。
前回のブログで、「問題を発見するということは、まだ満たされていない要求を発見すること」であると考えました。
これでも劇的に問題が発見しやすくなった訳ではありませんが、
「問題を見つけて来て下さい」
と言われるよりは
「まだ叶っていない要求を見つけて来て下さい」
と言われた方が、多少はなんとかなりそうです。
では、これを具体的にどうやって発見するのか、その方法について考えたいと思います。一度医用機器を離れて、まずは他の製品やサービスのデザインについて考えます。
街頭インタビューか何かを実施して、
「あなたの叶っていない望みはなんですか?あ、オーディオセット限定で考えて下さい。私はオーディオメーカーの者なので・・・」
「私自動車メーカーの者ですが、新しい自動車を作ろうと思っています。あなたはどんな自動車が欲しいですか?こんなのがあったらいいなぁ、というものをなんでも良いので教えて下さい」
こんなことを聞いても、皆
「???」
と、困ってしまうでしょう。そんなことは普段から意識的に考えているばかりではないので、答えにくいのです。
それでも作ろうとしているものが「オーディオ」や「自動車」のように、既に世の中にあるものならば、こう言う質問をしても何かしらの意見は出て来るかも知れません。
「そういえば、今乗っている自動車の燃費が悪いから、もっと燃費の良いものが欲しいなぁ」
「すべて自動で運転してくれる自動車があると良いですね」
「完全に声で操作出来るポータブルオーディオがあると便利です。」
今のものをたたき台にして、それに対する「もっとこうなら良いのに」ということを考えることは、なんとか出来ます。
では、たたき台になる既存品や類似品がないものを作ろうとしたらどうでしょうか?これはつまり、まだ誰も解決していない、発見すらしていない問題に切り込んで行くことになります。問題がどこにあるのかも分かりません。とても難しそうですが、これまでにこういうことは沢山行われて来ており、そのお陰で世の中には便利なものが沢山あるのです。
身近な例で考えると、HONDAのスーパーカブというバイクがあります。とても有名なバイクです。郵便配達も新聞配達もお蕎麦屋さんも、皆カブに乗っています。
戦後、いくつかのメーカーが原付バイクを作り始めます。これは自転車に最初からエンジンが取り付けられている、今の原付バイクと同様のものです。当時の原付バイクは、排気量が125cc〜250ccのものが主流でした。形もベスパのような優美なイメージで、「スクーター」と言われる、足を揃えて腰掛けるタイプでした。
この頃のHONDAの主力製品は、普通の自転車に後付けで付ける補助エンジンでした。他社の動向を見て、HONDAも最初からエンジンが搭載された原付バイクを50ccで作ろうとします。これを最初に考えたのはエンジニアではなく、経営を受け持っていた藤沢武夫でした。ただこの時点では藤沢にははっきりしたコンセプトはなく、漠然と「50ccの原付を作ろう」ということしか考えていませんでした。
この漠然としたアイデアに具体的なコンセプトを付け加えたのは、社長で技術者でもあった本田宗一郎です。宗一郎は藤沢とヨーロッパにモペッドの視察に行き、その間にコンセプトを練りました。
新しく作る原付バイクのデザイン・コンセプトは「仕事で使うための原付バイク」。これはカブの元になった自転車用エンジンが、米屋や蕎麦屋などの配達業務に多く使われていたこともあります。宗一郎はエンジン付きの自転車がどこで必要とされるかを、散々見ていたので知っていました。
「仕事で使うための原付バイク」というデザイン・コンセプトから、宗一郎が考えた蕎麦屋の小僧さんの配達時の要求は、
・オカモチを片手に持っていても運転したい
・草履でもギア操作をしたい
・簡単に駐輪したい
などなど。他にもいくつかありましたが、こういう具体的な要件を設定し、あとは得意の技術開発を行いました。そして優美なスクーターとは一線を画した、あの独特のフォルムと性能を搭載した「カブ」が誕生します。
そしてカブは大ヒットします。今までで世界で一番売れたエンジン付き乗り物は、HONDAカブで今も変わること無く売れ続けています。
この例を考えると、カブが誕生した背景にあるのは、
1)後付けの自転車用エンジンが配達業務でよく使用されていた
2)世の中には「配達時には自転車よりもエンジン付きの乗り物に乗りたい」という潜在的な要求があった
3)本田宗一郎は日頃の観察からそれに気付き、配達に特化した原付バイクを開発した
このようなプロセスです。
フィールドの観察で潜在的な要求(問題)を見つけたこと。これがカブ開発の重要なポイントになっています。
要求があると気付いたのは、元々仕事用として売り出された訳ではなかった、後付けの自転車用エンジン。これが実際に使用されていた場面が、配達や荷物を運ぶ時ばかりだったからです。
開発者が設計段階で意図したことと、実際の使用にズレがある場合、そこには何か隠れた要求があることがあります。これは1つ、問題発見の手がかりになります。
次回はここについて、もう少し考えてみましょう。





















