オープンソースの秘密

以前のブログで、波多先生達が開発している「3D Slicer」についてご紹介しました。フリーソフトなので、無料でダウンロードも出来ます(ダウンロードはこちらから。サンプル画像をスライス出来るので、楽しいですよ)。

さて、以前もご紹介したようにこの3D Slicerはオープンソースです。オープンソースと言うのは、そのソフトウェアのソースコードをweb上等で公開(オープン)しているソフトウェアのことです。ソースコードは言ってみればソフトウェアの遺伝子のようなものなので、通常は秘密にされています。これを公開してしまえば、苦労して開発したソフトウェアを、他社に簡単にコピーされてしまうからです。そこをあえて公開しているのがオープンソースです。そうすることによって、ユーザが自由にソースコードを改変・改良することが出来ます。

さてこの「3D Slicer」、元々は波多先生が大学院生時代に開発していたそうです。「3D Slicer」というストレートな名前の名付け親も波多先生です。そこにある先生が関心を持ちました(この先生については、今後またご紹介します)。その先生が「3D Slicer」をオープンソースにすることを提案し、その方針で開発を進め・・・そして現在の「3D Slicer」が生まれたそうです。そして今やすっかり、医用画像処理のオープンソースソフトウェアとしての地位を世界中で確立するに至りました。

なぜオープンソースなのか?というと、
「研究費は税金から貰っているものだから、成果を社会に還元するべきだから」
だそうです。
確かに税金を払っているということは、ある意味その研究の出資者とも言えます。出資者としては、せっかく投資した研究の成果が、なんなのかよく分からないよりは、フリーソフト・オープンソースとしてどんどん社会に還元して貰う方が、納税した甲斐があるというものです。研究者として、日頃から相当意識していないと、ついつい忘れてしまうことですが・・・。

こういう考え方には、ヒトゲノム計画におけるセレラ・ジェノミクス社の存在も影響しているようです。1990年代に、アメリカ政府が30億ドルの予算を組んで始めたヒトゲノムの解読プロジェクト。得られた研究成果はオープンなデータベース「GenBank」に上げ、世界的に共有することにしました。ところが、このプロジェクトとは別に、ベンチャー企業のセレラ・ジェノミクス社がわずか3億円の投資でヒトゲノムを解読します。この解読においてセレラ社はGenBankのデータを無償で利用しつつも、研究成果は営利目的のために公開しませんでした。
これには、これは研究の進歩を遅らせることになる、巨額の税金を投入したプロジェクトなのに、成果を一企業が独り占めするのはおかしい・・・などなど、あちこちで論争が勃発。そしてその結果「バミューダ原則」が策定され、研究成果を24時間以内に公開することで合意しました。

当時私は学生でしたが、この論争のことをはっきりと覚えています。当時として、セレラ社が一方的に悪者という扱いではありませんでした。公的な研究成果を企業が利用して利益を得ること。こういうことは、歴史的にも世界中で行われて来たことです。セレラ社は少し露骨だったと言うだけで、これを単純に「悪い」として良いのか、考えることはこれだけではないのでは無いか。と、なんとも複雑な問題提起でした。

この騒動以降、公的資金を投入した研究成果はオープンにして、社会に還元しようという動きがどんどん盛んになったそうです。オープンソースの「3D Slicer」も、こういう風潮を背景に生まれたそうです。
「なんとなくオープンソース」なのではなく、こんな深い理由があったんですね。

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※写真は3D Slicerで頭部のMRIサンプル画像をダウンロードし、スライスしている様子です。サンプル画像のため、当ブログ掲載上の倫理的・法的な問題はございません。

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About mikikumekawa

粂川美紀 Miki Kumekawa 千葉大学大学院工学研究科デザイン科学コース特任助教時代に、独立行政法人日本学術振興会「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」基金により、米ハーバード・メディカル・スクール ブリガム&ウイメンズ病院に客員研究員として滞在しました。このブログはその時の記録です。
カテゴリー: システム, マネジメント, リソース, 開発 パーマリンク

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